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2013年3月24日 (日)

Parrenin et al. (2013) Science, 339, 1060-1063. 氷期‐間氷期サイクルにおける大気CO2濃度変動の役割

“Synchronous change of atmospheric CO2 and Antarctic temperature during the last deglaciation”

 

 氷期-間氷期サイクルは、人類が進化してきた第四紀(過去258万年間)という時代を特徴づける気候変動である。特に、過去約80万年間の氷期-間氷期サイクルは、約10万年の周期で繰り返し、その振幅は平均気温で5℃以上、大陸氷床の拡大に伴う海水準変動で120mに及ぶ。氷期‐間氷期の繰り返しは、地球軌道要素(公転軌道離心率、地軸の傾動、地軸の歳差運動)の周期的変化が引き起こす地球への日射量の緯度分布や季節分布の変動(いわゆるミランコビッチ・サイクル)に起因することが、既に明らかにされている。しかし、そうした地球軌道要素に伴う日射量の変動は、地球全体が年間に受ける日射の総量をほとんど変化させないため、古気候記録に示されるような、氷期-間氷期サイクルに伴う全球規模の大きな気温変動を引き起こすためには、地球の気候システムに内在する何らかの増幅過程が必要となる。しかしながら、こうした日射量変動がどの様にして増幅されるのか、そのメカニズムは未だに完全には解明されていない。そして、それを解くカギは、氷期から間氷期への移行過程において、何がどういう順番で変化していたのかを知ることにあると考えられている。

 南極の氷床コアが保持する古気候記録は、この問題の解明に繋がる重要な情報を与えてくれる。これまでの研究で、氷期から間氷期への移行期(融氷期と呼ばれる)における氷床の融解より数千年先行して、南極の気温および大気中のCO2濃度の変化が起こっていた事が明らかにされており、更に、Monnin et al. (2001)の研究により(少なくとも最終融氷期においては)南極の気温の上昇が、CO2濃度の上昇に数百年先行していたとされていた。これに対し、本研究は、より厳密な対比を行い、南極の気温がやや先行しているようにも見えるが、むしろ、両者は誤差(100年程度)の範囲で同時であり、強くカップリングしていると見るべきだと主張している。

 氷床コアの記録において、南極の気温の指標には氷の水素同位体比が用いられており、一方、大気中のCO2濃度は、氷に含まれる気泡に保持された大気の分析値を用いている。ここで、両者の時間差の評価に誤差が生じるのは、氷の水素同位体は、その層準が地表にあった時の降雪の水素同位体比を記録しているのに対して、気泡は、氷床表面下50120m位のところで、圧密で気泡が閉じた時点での大気のCO2濃度を記録しているためである。従って、気泡が閉じる深度(Lock-in DepthLID)をどのくらい正確に推定するかが、時間差の推定誤差を小さくするカギとなる。本研究では、気泡中のN2の窒素同位体比を利用してLIDをより正確に推定した。気泡が相互に通じているLIDより浅い部分では分子拡散により同位体分別が起こり、LIDの深さに比例してN2の窒素同位体比は増大する。この性質を利用してLIDを推定したのである。LIDは、積雪速度や雪の圧密速度など様々な要因で変化する。本研究では、LIDを各層準ごとに細かく推定し、その時代変化を考慮することで、同一層準における気温とCO2濃度記録の時間差をより正確に推定した。

本研究におけるもう一つの工夫は、南極全域をカバーする5地点での気温データを重ねて平均化することにより、南極気温変動データのノイズを著しく小さくしたことである。この結果、気温とCO2濃度の時間差の推定誤差を90160年にまで抑えることが出来た。これを基に、最終融氷期(21万年前)における気温とCO2濃度の変化を比較した結果、誤差の範囲で両者の変動のタイミングが一致していたことが示された。また、両者の変動が相関係数0.99以上で相関している事も示された。これらの結果は、どちらかと言えばわずかに気温が先行しているものの、南極の気温と大気中のCO2濃度が強くカップリングしていることを意味する。一旦変化が始まると、両者間の正のフィードバックにより、変化が増幅されて大きくなってゆくのである。 

本研究の結果は、氷期から間氷期への変化において、どこにおけるどういう変化が融氷期のきっかけとなったのか、という問題の答えを与えるには至っていない。しかし、南極における気温あるいはそれに直接的に影響を与える海氷分布や表層水における鉛直混合の変化が引き金になっている可能性を強く示唆している。これが本当なら、氷期間氷期サイクルが北半球高緯度域における夏の日射量変動により引き起こされている、つまり、北半球高緯度における変化が引き金になっている、とするミランコビッチの仮説に基づいたこれまでの考え方を修正する必要があるかもしれない。

 

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