« 「プロメテウス」は救いようがない映画だ | トップページ | 「007スカイフォール」はジュデイ・ディンチの引退興行だね »

2012年10月28日 (日)

Elderfield et al. (2012) Science, 337, 704-709. 氷期-間氷期サイクルの周期は、いつ、どの様に変わったのか?

"Evolution of ocean temperature and ice volume through the Mid-Pleistocene Climate Transition"

 

 現在、私たちは、約3400万年前に始まった地球史の中で最も新しい氷河時代の中にいる。氷河時代は、しばしば、寒冷化して氷床が拡大した氷期と、相対的に温暖で氷床が縮小した間氷期の繰り返し、いわゆる氷期-間氷期サイクルで特徴づけられる。そして現在は、約300万年前の北半球氷床の出現で始まり、それが拡大する過程で顕在化した氷期-間氷期サイクルの中の最も新しい間氷期(後氷期と呼ばれる)に当たる。

氷期-間氷期サイクルは、地球軌道要素の変化(地球の公転軌道の離心率変化や自転軸の傾きの変化、そして公転軌道に対する自転軸のゴマスリ運動)によって引き起こされる日射量の緯度分布および季節分布の準周期的変動(一般に、ミランコビッチサイクルと呼ばれる)が、地球システム内で増幅されることによって引き起こされている。氷期-間氷期サイクルがミランコビッチサイクルに同調している事は既に周知の事実で有るが、今から約125万年前以前には、およそ4万年の地軸傾動周期に同調していた氷期-間氷期サイクルが、およそ70万年前以降はおよそ10万年の離心率変動周期に同調するようになった事は、専門家以外には余り知られていない。この周期の変化は、更新世(Pleistocene:258万年前-約1万年前)の只中に起こったため、MPT(Mid Pleistocene Transition)と呼ばれており、その原因や変化の詳細を明らかにする事は、ミランコビッチサイクルがいかにして氷期-間氷期サイクルを引き起こしたかと言う、未解決の大命題を解く上での重要な手掛かりを与えてくれると期待される。

 MPTについては、これまで、「底生有孔虫と呼ばれる海底に棲む単細胞生物の石灰質な殻の酸素同位体比が主に海水の同位体比を反映し、海水の同位体比は大陸氷床の体積(=海水準)を反映する」との仮定のもと、世界の色々な海域から報告された底生有孔虫殻の酸素同位体比の変動を重ね合わせて平均化したデータに基づいてその特徴が議論され、125万年前から70万年前にかけて、氷床が徐々に大きく成ると共に、4万年周期が10万年周期に置き換わって行ったと言われている。これに対して著者らは、底生有孔虫殻の酸素同位体比は、海水の同位体だけでなく殻を沈殿させた時の水温の影響も受けるので、氷床体積の指標としては不完全であると指摘している。そして、南太平洋ニュージーランド沖の水深3290mの深海底から回収された掘削コアから分取された合計1485個の試料中の底生有孔虫殻について、酸素同位体比と同時に水温の指標であるMg/Ca比を測定し、殻が酸素同位体を取り込む際の水温の影響を取り除くことにより、海水の同位体比の変動を過去150万年間に渡って復元した。

 復元結果は、従来の考えを覆すもので、数々の示唆に富んでいる。即ち、氷床体積の変化は、従来言われていたように数十万年かけて徐々に起こったわけではなく、95万年前から87万年前の8万年間で急激に起こった事が明らかになった、一方、底層水温の変動様式は、氷床コアに記録された南極の気温の変動様式とよく似ており、南極の気温を反映している事を示唆している。そして、氷期極相期の水温は-1.7℃前後と低く、過去150万年間余り変化が見られない事が示された。一方、間氷期の深層水温は、45万年前以前には、1℃弱低かった。更に面白いのは、間氷期極相期直後の深層水温低下は、氷床体積増加に先行しており、間氷期から氷期に向かうプロセスの前半では、主に水温低下が有孔虫殻の酸素同位体比増加に寄与しており、後半は、主に氷床体積の増加が寄与している事である。そして、少なくとも研究された地点においては、深層水温の変化が有孔虫殻の酸素同位体比変動の半分近くを説明している。

 著者らは、更に、何がきっかけで、MPTで氷床体積急増が起こったかについても考察している。即ち、酸素同位体比ステージ24で氷床が成長した後、ステージ23で氷床が余りほとんど融けなかった事が、次のステージ22で更に氷床を拡大させることになったと主張し、同位体ステージ23で氷床が余り融けなかった原因は、この時に、南半球高緯度域の夏の日射が余り上昇しなかったからだと論じている。(そして、筆者はあまり注目していないが)それは、40万年周期で離心率が極小になった時期と一致している。)この解釈は、南半球高緯度の夏の日射量変動が、氷期-間氷期サイクルに影響を与えているという主張を含んでいる点でも重要である。それは、現在、氷期-間氷期サイクルのペースを決めているのが、ミランコビッチが提唱したように北半球の夏の日射量なのか、それとも南半球の日射量なのかで盛んに議論が戦わされているからである。

 Elderfieldは、70歳に近い研究者であるが、未だにNature Scienceなど、トップレベルの雑誌に論文を書き続けている。そのアクティビティーの高さには、恐れ入るばかりである。

« 「プロメテウス」は救いようがない映画だ | トップページ | 「007スカイフォール」はジュデイ・ディンチの引退興行だね »

学問・資格」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/564454/55988955

この記事へのトラックバック一覧です: Elderfield et al. (2012) Science, 337, 704-709. 氷期-間氷期サイクルの周期は、いつ、どの様に変わったのか?:

« 「プロメテウス」は救いようがない映画だ | トップページ | 「007スカイフォール」はジュデイ・ディンチの引退興行だね »