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2012年3月 7日 (水)

Elser and Bennett (2011), Nature, 478, 29-31. リンの生物地球化学的循環破綻が招く2重の危機

"A Broken biogeochemical cycle"

 

 ここで紹介するのは、昨年10月のNature3ページにわたるコメントとして掲載された、生物の必須栄養素であるリンの資源としての枯渇危機に関する解説の要約である。その地球化学物質循環を理解し、それを政策に反映させることの重要性が、解りやすく説明されている。

 

肥料や洗剤の成分として用いられるリンの土壌から河川や湖沼、海洋への一方的流出は、水質汚染や富栄養化、沿岸域底層水の無酸素化による沿岸生態系破壊などを引き起こす一方で、その埋蔵量は限られており、その消費速度は、2030年頃にピークを迎えた後、減少する事が予想されている。肥料としてのリンの代替物質が存在しない事から、その採掘による枯渇は、深刻な問題である。

 リンの供給面での不安はそれだけではない。その主要供給国が、必ずしも政治的に安定でない北アフリカに偏在しており、モロッコを筆頭とした上位3か国が、その埋蔵量の85%以上を占めている事も、大きな懸念材料である。実際、レアアース元素と並んで、アメリカ合衆国にとっての「戦略的物質」に加えられるかもしれない。

 こうした問題解決のカギは、リンの効率的利用やリサイクル方の開発にある。2005年に、およそ1750万トンのリンが採掘され、そのうち1400万トンが肥料として使われた。(それ以外の用途は、洗剤や家畜の飼料である。)しかし、そのうち800万トンは、浸食、溶脱により川や海へと流出し、作物となった400万トンのうち100万トンは、ごみとして捨てられる。結局、人間の口に入るのは、300万トンに過ぎない。(200万トン分、計算が合わないが、畑に滞留しているという事か?)これでは、使用した肥料の8割は、食糧生産に使われず、流出したことになる。

 この状況を改善する手段として、し尿からのリンの再利用効率を、現在の10%から、もっと高める方法がある。これは、同時に衛生環境の改善にもつながる。もう一つの手段として、農作物や家畜の育成に要するリンの量を減らす方法がある。手っ取り早いのが肉食から菜食への転換であるが、その実現は困難だろう。より現実的な手段として、作物や家畜の品種改良によるリンの消費量の削減があるが、それらは、実験段階あるいは政府の認可待ちの段階にある。

 こうした施策を効果的に進めるには、農地、湖沼、沿岸域といった各サブシステムにおけるリンの貯蔵量とサブシステム間のフラックスのより正確な把握が不可欠である。これを促進するために、世界リンネットワーク(Global Phosphorus Network)が組織され、2010年には、科学者、企業、行政を結ぶ持続可能なリンの管理コンソーシアムが生まれた。しかし、その活動は、国際政治レベルではまだ浸透していない。この動きを加速するには、リン、窒素などの栄養物質の持続的利用に関する国際的な科学および政策研究センターを設立する必要がある。そして、例えばリン排出市場(CO2のような)あるいは国際戦略的リン備蓄などによるリスク分散を検討すべきである。

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