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2011年11月 5日 (土)

Foley et al. (2011) Nature, 478, 337-342. 持続可能な世界創出の為に、今、農業が進むべき道

“Solutions for a cultivated planet”

人類は、地球温暖化を始めとする、自らが招いた様々な地球環境問題に既に直面しているが、それに加えて、人口増加に起因する食料危機が迫りつつある。地球規模での食料危機から人類を救うには、ここ2030年の間に、食料の生産を倍増させる必要があるが、これまでのやり方で農作物の生産を増やすのでは、地球環境への負荷の更なる増大を招いてしまう。人類は、地球環境への負荷を軽減しつつ、農作物の倍増を達成すると言う困難極まりない課題を、これから~30年以内に達成しなくてはならないのである。この人類存亡に関わる超重要問題は、一応、認識されているものの、それに対する危機感が余りに低い。それは、一つには、現状を定量的、具体的、かつ包括的に記述して、解決策をわかり易く解説した科学論文が無いからだろう。ここに紹介する論文は、その意味で重要かつ貴重と言える。以下に、この論文の概略を紹介する。

現在、地球では、総人口の約7分の1が定常的に飢えている。農作物消費に関する考え方を抜本的に変える事なしに、現在の社会構造のままで、将来の人口増加、食生活の変化(贅沢化)、バイオ燃料の利用増大が進んだ場合、安定な食料供給を維持する為には、農作物生産を(2030年以内に)現在の倍にしなくてはならない。これ自体が大変な事だが、我々人類は、同時に、もう一つの大きな問題を解決する必要がある。それは、農業の環境への脅威である。今や農業活動は、気候変動や生物多様性の喪失の主原因であり、地球規模で土壌の劣化や水質の低下を引き起こしている。人類は、この問題も同時に解決する必要があることをこの論文は指摘している。

近年、世界的スケールで農業と環境の変化トレンドを見る事ができるデータが入手出来るようになって来た。例えば、氷床に覆われていない地球上の土地の内、耕作地はその12%を、牧草地は26%を占め、農耕地は併せて38%に達する。その面積は1985年から2005年の間に3%増加しているが、そのほとんどが熱帯域で起こっている。同じ期間に、全世界での農作物生産は28%増えているが、これは主に単位面積当たりの生産高が25%増加した事による。実際に収穫が出来た耕作地の面積は7%増えており、その主な原因は多毛作の増加や洪水、干ばつなどの被害の減少などである。その事を考慮した上での19852005年の間の全世界平均での単位面積当たりの農作物生産高の増加は20%で、19651985年の間の56%から大きく減少している。これは、単位面積当たりの農作物生産の増加が限界に近づいている事を示唆している。

では、生産された農作物は、どの様に消費されているのだろうか。実は、生産された農作物のうち、人間の口に直接入るのは僅か62%である。あとの35%は、家畜の餌であり、3%はバイオ燃料などに使われる。この割合は、地理的にも大きく変化する。北米や欧州では、家畜の餌になる割合が高く、人の口に直接入るのは40%過ぎないのに対し、アフリカやアジアでは80%以上に達する。そして、家畜を育てるのに使われている土地(餌のための耕作地を含む)の面積は、全農耕地面積の実に75%に達するのである。こうした現実を考えると、少なくとも生産性の高い耕作地を家畜の餌の生産の為に用いるのは、慎むべきだろう。

農業の環境への影響には、大別して、「農耕地拡大」と農耕地の単位面積当たりの生産性を上げる「生産性強化」の2つの側面がある。これまでの農耕地拡大史を世界的スケールで見ると、草原の70%、サバンナの50%、温帯落葉樹林の45%、熱帯雨林の27%が、農耕地に転換されてきた。そして、現在、転換されつつある土地の80%が熱帯の森林であり、その伐採に伴うCO2の放出は、全人為的放出の12%に及ぶ。一方、生産性強化に伴って、ここ50年で灌漑された耕地面積はおよそ2倍になり、肥料の使用量は50倍になっている。その結果は、水質の低下、エネルギー使用量の増大、そして公害を招いている。実際、人類による淡水の利用の70%は灌漑によるし、肥料の使用は、リンや窒素サイクルの擾乱を通じて水質、生態系、漁業などにも影響している。また、農耕地拡大や生産性強化は、人為的なGHG(温室効果ガス)放出の30-35%を引き起こしている。

こうした情報から得られる重要な結論は、「熱帯域における農地拡大は、生物多様性を減少させ、GHGの放出を加速させ、重要な生態系の機能を低下させるにも拘らず、地球規模での食料供給にはほとんど貢献しない」という事であり、「生産性強化の費用対効果は地理的条件や農業経済的努力により大きく変化する事を考慮して、食物の生産と環境保護のバランスと言う視点でベストな解を選択すべき」という事である。

地球規模での食料安定供給と環境の継続的維持を両立させる為には、現在の農業システムを大きく変える必要がある。新しい農業システムにおいても、今後の20-30年のうちに、食料生産を倍増させる必要がある。同時に、農業に係わるGHGの放出を少なくとも現在の2割にまで減少させ、生物多様性や生態系の喪失を食い止め、水の消費を持続可能なレベルに押さえ、水質の低下を食い止める必要がある。これら問題の解決策として、以下の四つの提案がなされている。

1)特に熱帯域における農耕地拡大の阻止: 熱帯域において農耕地に転換される土地の多くは生産性が低く、生産性が高い土地も食料生産に寄与していない場合が多い。熱帯域で必要とされる食料の増産は、周辺域での増産でカバー出来るので、経済的インセンティブを与える事により、実現可能と思われる。

2)イールドギャップの解消: イールドギャップとは、「ある土地において実現可能な最大の生産性と現実の生産性の差」と定義される。現在の地球においては、イールドギャップの地理的分布の変化が大きく、かなり改善の余地がある。多くの地域で栄養分や水が生産性を規定しており、それは管理法のマズさに起因する。もし、実現可能な最大の生産性の95%の生産性を全世界で達成できれば、世界の食料を58%増加させる事が出来る。75%まで上げるだけで28%の増産が可能である。こうしたイールドギャップの解消は、環境悪化を引き起こす事なく、達成されなければならない。それには、従来の農業を大きく変える事、市場の内部構造を改善する事など、大胆な改革が必要である。

3)農業を行う為に使う資源の有効利用促進: 水や肥料やその他化学薬品の使用を抑制しつつ、農作物の生産をあげる事も重要である。例えば、耕作地の24%で灌漑が行われているが、その費用対効果は地域により様々である。肥料についても同様で、肥料の過剰使用による水質の悪化が問題になる一方、途上国におけるイールドギャップは多くの場合、肥料不足に起因している。こうした問題は、肥料の過剰使用自粛、栄養塩のリサイクル、湿地の保護などの努力により解決し得る。

4)食習慣の転換と食料の浪費削減: 農作物の家畜の餌への使用、バイオ燃料への利用、その他人間の食料以外の利用を止める事により、食料の供給を28%増やす事が出来る。また、FAO(国連の食料・農業に関する機関)などの試算によれば、生産された食料のうちの1/2ないし1/3が、食される事なく遺棄されている。開発途上国においては、輸送及び貯蔵過程で40%以上が失われるのに対し、先進国では40%以上が無駄に捨てられている。

 現在の地球において、既に10億を超える人々が飢えており、有効な対策を講じなければ、状況はどんどん悪化するだろう。我々は、この状態を黙視すべきではない。上に示した4つの対策を全て講じる事でのみ問題の解決が可能である。そして、これらの戦略を、世界中で有効に進めるには、数多くの経済的、政治的改革が必要となるだろう。

 論文では更に、その為のガイドラインも提案している。

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