2012年5月 6日 (日)

「宇宙兄弟」は予想外に面白かったね

連休の中でやっと晴れた5日、多摩川でジョギングをしたあとに家内と映画に行った。家内が、小栗旬がいいと言うので、まあ子供向けの映画だろうと余り期待もせずに「宇宙兄弟」を見た。子供の頃にUFOを見たのがきっかけで、宇宙飛行士を目指してその夢を術限させる兄弟の話だ。夢を迷わず追い続けて一足先に宇宙飛行士になった弟を演じるのが岡田将生、一旦夢を諦めて就職をするが、弟に刺激されて再び宇宙飛行士を目指す兄を演じるのが小栗旬だ。単純で子供向きのストーリーではあるが、大人でも楽しめるよう、いろいろ工夫がされていた。特に面白かったのが、6人の宇宙飛行士候補者を密室で共同生活させて適性を見る場面だ。JAXAの全面協力で施設は本物。多分、JAXAでは本当にこの様な訓練が行われているのだろう。それぞれのメンバーの微妙な心理状況や追い詰められた状況下での反応がよく描かれており、つい、学生の教育の三校になるのではという目で見てしまった。全体としてストーリーも良く練られており、十分楽しめた。しいて気になった点を言えば、月面での場面を、地球の重力を感じさせぬ様にもう少し工夫して欲しかった事と、弟が助かってからあとの場面を、余り説明しすぎず、余韻を残して終わって欲しかった事であろうか。

2012年3月25日 (日)

「マーガレット・サッチャー鉄の女の涙」は、文句なくおすすめだね

久しぶりに晴れた日曜日(3/25)、家内と一緒に「マーガレット・サッチャー鉄の女の涙」(原題:鉄の女)を見に行った。封切りから1週間が過ぎていたが、メリル・ストリープがアカデミー賞主演女優賞を取ったこともあってか、劇場はほぼ満席だった。マーガレット・サッチャーは1980年代(正確には19791990)の英国の首相で、彼女の在任の時期は、私が学位を取りアメリカに留学した前後の時期に当たるため、私には、きわめて印象が濃い。同時期にアメリカ大統領であったロナルド・レーガンや中曽根首相とともに、保守的で強硬な路線で世界を引っ張った政治家だった。

映画は、年老いて引退したサッチャーが、既に亡くなった夫の幻と語りながら昔を回顧する形で始まり、淡々と進んでゆく。彼女が、第二次大戦中に、政治家として毅然とした態度、行動を取る父親にあこがれ、家庭の主婦として一生を過ごすことを拒絶し、政治家として社会貢献に身をささげる道を選んだこと、自分の信念を押し通して突き進みヨーロッパで初めての女性の首相となったこと、その後もぶれることなく信念と論理性を重視する姿勢で数々の危機を乗り越え、崩壊寸前だったイギリスの経済と社会を救った様子、そして冷戦の終了とともに彼女の時代が終わったことなどが、コンパクトに解りやすく描かれている。

メリルは、1979年から現在に至るサッチャーを見事に演じている。昔のサッチャーを知る者にも全く違和感を与えず、毅然としたサッチャーの姿を自然体で演じている。アカデミー賞主演女優賞も取って当然と言える名演技である。高い志とぶれない信念を持って突き進んだ彼女の生きざまは、社会に出て男性に伍して仕事に生きてゆこうとする女性たちの参考になるだろう。また、1980年代を知る者にも、表面的にしか知らなかった(私の場合)当時のイギリスの社会背景が解って面白い。そして、経済的に行き詰まったイギリス社会、妥協ばかりを繰り返して問題解決に手を付けないイギリス政治の混迷の様子は、まるで今の日本を見ているようである。その行き詰った状況に風穴を開けて、イギリスを再生させたサッチャーの政治手腕は、今の日本にも必要なものだろう。老若男女すべての人にお勧め出来る映画である。

2012年3月10日 (土)

エコノミーでのヨーロッパ行きも映画があれば苦じゃないね

久しぶりの海外出張。ロンドン経由でニューキャッスルまで、併せて20時間の長旅である。今回は、早めに日程が決まったので、全日空201便ロンドン行きを予約した。機種はB777-300。シートも新しく、Displayも大画面で、洋画、邦画合わせて40近い映画から選び放題である。まず、日本では封切りされたばかりの洋画「タイム」を見た。金の代わりに余命の時間がやり取りされるという奇想天外というかバカバカしくも思える設定の近未来SFなのだが、拝金主義的がはびこり、生まれながらに不平等な今のアメリカ社会を痛烈に皮肉っているように思える映画で、主役二人の熱が入った演技も相まって、結構楽しめた。次に見たのは、やはり日本で現在上映中の「タンタンの冒険」。これは、CGアニメだが、時として実際の撮影と見間違うほどリアルな映像で、かえって気持ちが悪い。食事でワインを飲んだ後に見たこともあって、途中、うとうとと寝てしてしまった。ストーリーは、先ず先ずで、途中で眠りさえしなければ、それなりに楽しめただろう。3つめは、「サラリーマンネオ」。NHKのドラマの映画化である。それなりにバカバカしく、面白くはあったが、映画にする必然性は、全く感じられなかった。4つめは、ウィル・スミスの「I am a legend」、2007年のSF話題作である。さすがに話題作だけあって、そこそこ見応えがあった。そして5つめが「The Big Year」。ジャック・ブラック、ステイーブ・マーティン、オーウェン・ウイルソンの競演による2011年の日本未公開のコメディー映画である。バードウォッチを趣味とする以外は、それぞれ年齢も、職業も、居住地も生活レベルも違う3人が、1年のうちに何種類の鳥を観察できるかを競う競技会に参加する。仕事も家族もそっちのけで、お互いにけん制し合い、出し抜きあいしながら珍しい鳥を求めてアメリカ中を駆け回るうちに、徐々に友情が生まれ、あるいは互いを尊重し合うようになる。リラックスして見れて、なんとなくホットできる映画である。私にはバードウォッチングの趣味は無いが、引退したらやってみようかと思わせる映画でもあった。最後(6つめ)が「指輪をはめたい」。2011年暮れに公開された邦画である。結構人気若手俳優を集めているが、出来は今一か。成田からロンドンまで12時間余り。ひたすら映画を見続けたので、全く時間の長さを感じない旅だった。

2012年3月 7日 (水)

Elser and Bennett (2011), Nature, 478, 29-31. リンの生物地球化学的循環破綻が招く2重の危機

"A Broken biogeochemical cycle"

 

 ここで紹介するのは、昨年10月のNature3ページにわたるコメントとして掲載された、生物の必須栄養素であるリンの資源としての枯渇危機に関する解説の要約である。その地球化学物質循環を理解し、それを政策に反映させることの重要性が、解りやすく説明されている。

 

肥料や洗剤の成分として用いられるリンの土壌から河川や湖沼、海洋への一方的流出は、水質汚染や富栄養化、沿岸域底層水の無酸素化による沿岸生態系破壊などを引き起こす一方で、その埋蔵量は限られており、その消費速度は、2030年頃にピークを迎えた後、減少する事が予想されている。肥料としてのリンの代替物質が存在しない事から、その採掘による枯渇は、深刻な問題である。

 リンの供給面での不安はそれだけではない。その主要供給国が、必ずしも政治的に安定でない北アフリカに偏在しており、モロッコを筆頭とした上位3か国が、その埋蔵量の85%以上を占めている事も、大きな懸念材料である。実際、レアアース元素と並んで、アメリカ合衆国にとっての「戦略的物質」に加えられるかもしれない。

 こうした問題解決のカギは、リンの効率的利用やリサイクル方の開発にある。2005年に、およそ1750万トンのリンが採掘され、そのうち1400万トンが肥料として使われた。(それ以外の用途は、洗剤や家畜の飼料である。)しかし、そのうち800万トンは、浸食、溶脱により川や海へと流出し、作物となった400万トンのうち100万トンは、ごみとして捨てられる。結局、人間の口に入るのは、300万トンに過ぎない。(200万トン分、計算が合わないが、畑に滞留しているという事か?)これでは、使用した肥料の8割は、食糧生産に使われず、流出したことになる。

 この状況を改善する手段として、し尿からのリンの再利用効率を、現在の10%から、もっと高める方法がある。これは、同時に衛生環境の改善にもつながる。もう一つの手段として、農作物や家畜の育成に要するリンの量を減らす方法がある。手っ取り早いのが肉食から菜食への転換であるが、その実現は困難だろう。より現実的な手段として、作物や家畜の品種改良によるリンの消費量の削減があるが、それらは、実験段階あるいは政府の認可待ちの段階にある。

 こうした施策を効果的に進めるには、農地、湖沼、沿岸域といった各サブシステムにおけるリンの貯蔵量とサブシステム間のフラックスのより正確な把握が不可欠である。これを促進するために、世界リンネットワーク(Global Phosphorus Network)が組織され、2010年には、科学者、企業、行政を結ぶ持続可能なリンの管理コンソーシアムが生まれた。しかし、その活動は、国際政治レベルではまだ浸透していない。この動きを加速するには、リン、窒素などの栄養物質の持続的利用に関する国際的な科学および政策研究センターを設立する必要がある。そして、例えばリン排出市場(CO2のような)あるいは国際戦略的リン備蓄などによるリスク分散を検討すべきである。

2012年2月18日 (土)

やっと終わった論文審査シーズン:終わった後に思うこと

一月から二月の初めにかけては、卒論、修論、博論の最終発表、審査のシーズンである。今年は、私の指導学生の中では、卒論が一人、博論が一人いるだけで、しかも、二人とも比較的手が掛らなかったのだが、他の学生の論文審査、発表審査が多く回ってきた。論文審査したのは、卒論4編、修論4編、そして博論が5編である。卒論でも1編読むのに45時間、修論になると1日から2日、博論では2日~1週間かかる。平日は、通勤の往復や帰宅後の12時間くらいしか時間が取れないので、週末はほとんど査読に充てざるを得ず、しかも、その状態が一か月以上続くのである。他の論文を読んでいる暇は、全くない。

論文を読むと、その学生が、自発的に一生懸命研究を行ってまとめたものか、指導教員に言われたことを受動的にやり、修正、加筆された通りに書いたものかすぐ分かる。学生が熱中して研究し、その結果を自力でまとめた論文は、読んでいても楽しい。博士論文になると、面白くて読みふけってしまうものも時々ある。今年度も、そのような博士論文が1編あった。書いた学生は、扱ったテーマの意義を的確に理解し、そのテーマに関する研究が現在どこまで進んでいて何が残された重要問題かを抽出するために、膨大の量の論文を読み、膨大な時間をかけてそれを体系的にまとめたことがよくわかる。そして抽出した重要問題を解決するために、ち密で徹底的な計画を立て、それを11つ丁寧に実行しているのである。論文を読んでいて、興味ある事実、不思議な結果に私が気付くと、決まって次の節でその事が指摘され、謎の解決がなされている。ちょうど推理小説を読んでいるような面白さを感じさせるのである。論理展開のシャープさ、エレガントさ、問題の徹底追及への姿勢を感じさせる重厚な論文だった。こういう論文にあたると、救われた気持ちになる。

一方、修論の発表審査会では、29件もの発表を聞く羽目になった。1件の発表が30分以上だから、ほぼ丸2日聞きっぱなしという事になる。何件か演習のレポートレベルの修論発表があったのは論外として、~10年前に比べて、発表技術は高くなったように思うが、テーマがコンパクトになり、こじんまりまとめられた論文が多くなった様に感じた。丁度プラモデルの様に、既に用意されていた部品を設計図に沿って組み立てて、完成させた作品の様な修論が少なからずあったのである。以前は、完成度は必ずしも高くなかったが、想像力豊かで奔放な論文がもっと多かったように思う。そして、そういった論文を書いた学生たちは、卒業後、優秀な研究者になっている例が多い。

こじんまり化の原因の一端は、大学教育に対する国の方針にあるように思える。国際化を焦るが故か、派手で目立つ研究ばかりを重視し、時間をかけて積み上げた研究、ち密で重厚だが派手さのない研究を冷遇している。その結果、見た目が派手で、結果がすぐ出る研究分野に若者が誘導されている。こうした傾向は、基礎研究の分野にまで及んでいる。大学での研究・教育に効率や短期間で結果を出すことを求め、研究能力をその中身をろくに見ずに論文の数や引用数だけで評価する風潮が、理学の分野にまで広まりつつある。

話は少し飛ぶが、今回の震災に伴う原発事故やその後の対応の混乱、無策も、「専門家」が手に入りうる情報をしっかり集めてその本質を理解することをせず、周囲の状況に流されて問題を見過ごしたり、事故後に自分の研究分野の擁護を優先する行動を取ったことが、大きく影響している。そしてそれが、国民の、科学や科学者に対する懐疑心や失望を引き起こしている。基礎科学は、短期的な社会利益に直接つながらない分、問題を俯瞰的、客観的に見ることができる分野である。今こそ、基礎科学の重要性を再認識するとともに、基礎科学者の役割や心構えを正しく認識した人材を育成すべき時だと、改めて感じた。

2012年1月15日 (日)

ロボジーとリアル・スティールに思う、今庶民が求めるもの

今日封切られた「ロボジー」を家内と見に行った。予想以上の盛況で、1時間前にチケットを買いに行った時には、前から2列目しか残っていなかった。映画館は、多分、これほど入るとは思っていなかったようで、比較的小さな部屋を割り当てたのも、早々と席が無くなった原因だろう。

私がこの映画を見に行ったのは、予告編によるところが大きい。老人がロボットの中に入って、2足歩行ロボットの振りをするという、単純で馬鹿ばかしい設定に、妙に興味を引かれたのだ。他の多くの観客も同じではなかっただろうか?館内は満員で、子供連れ、中高生から、カップル、老夫婦まで幅広い客層だったのも、興味深い。

ストーリーは予告編そのままで、中堅の家電会社が宣伝のために、お荷物社員3人にロボット博覧会への参加を命ずる。しかし、開発は思う様には行かず、出場直前にロボットは暴走して壊れてしまう。首になる事を恐れた3人は、ロボットの体の中に人間を入れてロボットの振りをさせ、危機を乗り切ろうとする。そのため、着ぐるみショーのオーディションを装って、ロボットの体の中に入る人を募集する。そして、腰を痛めてぎこちない歩きをする老人に白羽の矢を立てる。あとは、期待通り、その「ロボジー」が様々な騒動を引き起こすのである。単純明快でバカバカしいが解り易い笑い満載の映画である。

思えば、3.11以来、地震、津波や放射能漏れ事故の影響を多くの人々が直接的、間接的に受け、悲しさや憤り、ストレスがたまる1年だった。しかも、特に放射能漏れ事故は明らかに人災であり、高度な科学技術を背景に金と権力を握って国を動かしていた一握りの人たちが自らの責務を怠っていた事が原因で、しかも事故後も自らの保身に終始し、それが更に被害を大きくした事に、やり切れない思い、やり場のない憤りを感じ続けた1年でもあった。だからこそ、人々は、家族や友人はもちろん、世代を超えて他人同士でも、皆で一緒に腹を抱えて笑える機会を求めていたのではないだろうか?ロボットはハイテクの象徴であり、それにヨレヨレの老人が入って動き、それが人気を博す、そのユーモラスで人間味あふれる動きに心の安らぎを求めているのではないだろうか?

そういえば、昨年暮れからロングランを続けている映画に「リアル・スティール」があるが、こちらもロボットを主役にした映画である。しかも、このロボットもスクラップ置き場から掘り出された旧式のスパーリング用ロボットで、世の流れから置き去られ、切り捨てられた元ボクサーとその息子とともに、金と権力を思うままに操るセレブが所有する最新鋭で世界最強のロボットに挑んで勝利するというストーリーだ。こちらも、社会から切り捨てられかけた社会の底辺の庶民が、金に任せ、科学技術を駆使して権力の座に居座る者に挑戦して打ち勝つ、という図式である。ここにも、弱者切り捨て社会への不満、権力と科学技術への不信、不満、古き良き時代へのあこがれと言った、現在のアメリカの世相が反映されているように思える。この2つの映画に、庶民の科学技術への冷めた目を感じるのは、考えすぎだろうか。

 ちなみに、ロボジーの主演の五十嵐信次郎は、一般公募で選ばれたと言う事であったが、どこかで見た事がある気がしていた。エンディングテーマがやけに解り易い英語で、しかもちょっとシロウトっぽいけどうまいので、誰がうたっているのかと思ったら、五十嵐信次郎+シルバー人材センターとある。ひょっとしてとネットで調べたら、五十嵐信次郎とは、ミッキー・カーチスの本名だった。してやられた、まんまと策にはまってしまった。宣伝法も凝っている。

2011年12月23日 (金)

Lunt et al. (2011) Nature Geo, 4, 775-778. 始新世の温室世界に於いてガスハイドレート崩壊の繰り返しを制御したメカニズム

"A model for orbital pacing of methane hydrate destabilization during the Paleogene"

古第三紀の前半は、白亜紀を特徴づけるいわゆる温室世界が継続した時代で、二酸化炭素濃度は1000ppmを超えていたと推定されている。特に、およそ5600万年前の暁新世/始新世境界(PETMと呼ばれる)では、ガスハイドレートの崩壊によるメタン放出に起因する急激な温暖化が起こったと言われ、現在進行しつつある人為起源の地球温暖化に最も近い事例として注目を浴びている。著者の一人、Jim Zachosは、白亜紀から古第三紀にかけての古環境変動研究の第一人者で、PETM(温暖化と炭素同位体比の負のシフトで特徴づけられるイベント)の発見者でもある。そして、最近、それに類似した、しかし、規模が小さいイベントがPETMの後に繰り返し発生した事を見出して、再び注目を集めている。この論文では、PETMに類似したイベントの繰り返しが、偶然ではなく必然であった可能性を、「気候モデルを用いて境界条件を変える事により急激な変化が起こる閾値を探り、その結果を元に想定されるメカニズムの妥当性を検証する」と言う研究手法で行っている。Zachosらのグループは、PETMに続いて、その約200万年後にELMO、更にその120万年後にXと呼ばれるイベントがあったことを既に報告している。そして、それら一連のイベントに於いて、ガスハイドレートの崩壊規模を反映すると考えられる炭素同位体比の負のシフトの振幅が次第に減少するとともに繰り返しの頻度が増す、と言う特徴が見られる事、ダブルイベントと呼ばれる、10万年の間隔を置いて小振幅の炭素同位体比の負異常が現れる現象が見られる事、などもすでに報告している。従って、想定するメカニズムを検証しようとするモデルは、これらの特徴を説明する必要がある。

先にも述べた様に、PETMの原因については、ガスハイドレートの崩壊に伴ってメタンが大量に放出し、それが酸化してCO2と共に急激な温暖化を引き起こしたと言う説が最も有力であるが、ガスハイドレートの崩壊を引き起こした原因については、必ずしも解明されていない。一方、最近のサイクル層序学的研究によれば、PETM, ELMO, Xなどのイベントは、全て10万年の離心率周期で離心率が最大になった時に起こっている。この観察が正しければ、ガスハイドレートの崩壊による急激な温暖化イベントのタイミングは、天文学的周期に規定されていることになる。この時期には、大陸氷床が存在しなかったことから、どういう増幅機構によって、地球軌道要素の変化が、この様に急激な温暖化イベントの繰り返しを引き起こしたのか、も問題となる。

問題となる増幅機構をさぐるために、この論文では、大気‐海洋結合大循環モデルを用いて、当時の境界条件の元、大気二酸化炭素濃度を現在の2倍および4倍の状態で、それぞれ地球の公転軌道の離心率が最小の場合、最大でかつ北半球の夏の日射量が最大になる場合、最大でかつ南半球の夏の日射量が最大になる場合、そして現在の軌道の4通りについて、特に海洋循環に着目しつつ、気候復元を行った。その結果、特に、離心率が最小の状態から南半球の夏の日射量が最大になる軌道配置に移行する時に、南半球における深層水の形成が著しく抑制されることが解った。これは、二酸化炭素濃度上昇による表層-中層にかけての水温上昇が原因である。中層水温の上昇は2℃以上に及び、大陸棚斜面上部の水深に広く分布するガスハイドレートを崩壊させるに十分である。

この様に、地球軌道要素の変化による日射量変化が、海洋循環の変化を通じて大規模なガスハイドレートの崩壊を引き起こす可能性が示されたので、次に、閾値モデルを用いて、先に述べた地質学的観察事実を上手く説明する事を試みた。先ず、バックグラウンドとして大気中二酸化炭素濃度が徐々に上がってゆく条件の上に地球軌道の離心率変動の影響を乗せてフォーシングとした。そして、中層水は、バックグラウンドフォーシングには線形に応答するが、フォーシングがある閾値を越えると急激に昇温する様にした。一方、海底下のガスハイドレート貯蔵量は、中層水温に比例して減少するが、急激な昇温が有ると一気に崩壊し、一旦貯蔵が尽きると回復には50万年の時間を要する事とした。そして、地球の平均気温は、バックグラウンドフォーシングとして与えた大気中二酸化炭素濃度の上昇と放出されたメタンによる温室効果で決まるとし、メタンは2万年で酸化分解するとした。こうした条件の元で行ったモデルシミュレーションの結果は、先に説明した地質学的観察事実と良くあっており、想定されたメカニズムの妥当性を支持する。ただし、一連のイベントの原因としてガスハイドレートの崩壊以外の可能性を否定しているわけではないと最後に述べて締めくくっている。

想定しているメカニズム自体は従来から言われていたものだが、地球軌道要素の変化が深層水循環の変化と中層水温の上昇を引き起こし、それがガスハイドレートの崩壊を誘発しうる事を、モデルを用いて具体的に示した点が新しい。また、温暖化に伴う中層水温の上昇に連れて、ガスハイドレートの貯蔵可能量が減少するというのも、注目をすべきポイントである。ガスハイドレートの大規模な崩壊が頻発しやすい気温条件がある可能性を示唆しているからである。

2011年12月18日 (日)

Mission Impossible-Ghost Protocol: ドル箱シリーズの面目は一応保ったけれど

 今年は夫婦共に忙しく、一緒に映画を見に行く機会が中々取れなかったが、久しぶりに時間が取れたので、寒い中、トムクルーズの人気シリーズ「ミッション・インポッシブル」4作目を見に行った。前作から5年もの時間が空いたので、トムクルーズも肉体的に限界に近付いたのかと心配したが、老いを感じさせる事なく、手に汗握るアクション満載だった。その点では、ほぼ期待通りと言って良いだろう。しかしながら、今日は公開2日目だったにも拘わらず、劇場は8割の入り。公開前のTVなどでの宣伝も、前作程には力が入って居ない様に感じるのは、気のせいだろうか?

 今回の主な舞台はモスクワ。ロシアの核ミサイルの発射コードを手に入れ、人工衛星をジャックして米―ロの核戦争を企てる狂信的物理学者テロリストらの動きを察知してクレムリンに侵入し、その動きを阻止しようとするが一足遅く、クレムリン爆破の濡れ衣をかけられてしまう。米政府は、事件への関与の疑いを避けるため、イーサン(トムクルーズ)チームの登録を抹消してしまう。イーサンらは、ロシアの警察に追われながらテロリストらを追いつつ、ドバイ、インドと世界を駆け巡る。ドバイの超高層ビル、高速、インドの駐車場と舞台を変えつつ、衰えを感じさせないアクションを見せたトムクルーズだが、アクション以外の部分でのトムクルーズのストーリーへの絡み具合が何となく物足りない。むしろ、助演のポーラ・パットンやジェレミー・レナーの方が、絡みが深い気がした。トムクルーズの年齢(49)を考えても、次作が正念場かもしれない。

2011年12月 2日 (金)

Luo (2011) Nature, N&V, 477, 544-546. El Ninoを生み出すのに、大気-海洋相互作用はいらない?

"Ocean dynamics not required?"

El Ninoは、地球上の広い範囲の気候や環境に影響を与えるので、そのメカニズムの解明は、地球規模の気候変動を理解する上で不可欠である。従来、ENSO(エルニーニョ‐南方振動)のメカニズムにおいて、Bjerknes feedbackと呼ばれる、海面水温と貿易風、温度躍層の間での相互作用に起因する正のフィードバックが重要な役割を果たしている、という考えが支配的であった。しかし、最近、出版されたClement et al. (2011) J. Clim.は、slab ocean modelと呼ばれる(大気との熱交換だけで)海流などの動きを伴わないモデルを使って数値実験を行ない、大気と(循環機能を持つ)海洋の相互作用が無くてもENSOを作り出せる事を示した。Clementらによれば、以前にHasselmann(1976)が提唱した「海洋は、ストカスティックな導力をレッドノイズ(低周波数ほど強いエネルギーを持つ)に変える機能を持つ」という考え方で南方振動(ENSOの大気部分の変動)を説明できる。つまり、Bjerknes feedbackがなくても、レッドノイズの特徴を持った熱帯域のSST変動があれば、それが大気に反映されることにより、大気に南方振動に似た変動を引き起こせるというのである。ただし、循環機能を持つ海洋との相互作用(Bjerknes feedback)が不必要だと言っているわけでは決してない。大気海洋相互作用を加えたモデルでは、slab ocean modelに比べて、年々変動の振幅が23倍になる。では、10年~数十年スケールの変動についてはどうかと言うと、循環機能を持つ海洋との相互作用は、余り重要でない様である。(これがもし本当なら、いわゆるスーパーENSOは、大気と海洋表層との相互作用で生み出されることになる)ただし、Clementらの研究で、彼らがそのデータを利用した気候モデルの多くは、ENSOの周期や振幅を正しく再現できていない。今後、より改善された気候モデルを使って、同様に実験をする事が望まれる。

2011年11月15日 (火)

Gibbons (2011) Science, 333, 1689-1691, 90年前のアボリジニの髭が示す5万年前のアフリカからアジアへの人類拡散の証拠

およそ90年前に、イギリスの考古学者ハッドンが、南西オーストラリアのとある田舎の駅で、現地のアボリジニの若者から髭をもらい、それを英国に持ち帰って博物館の保管庫の引き出しにしまった。それから90年後、このヨーロッパ人やアジア人との交雑の影響を受ける前に生まれたアボリジニの青年の髭のDNAが解析され、遅くとも6万年前にアフリカを出て、5万年前にはオーストラリアに到達した、出アフリカ第一波の現生人類の子孫であった事が明らかにされた。また、別の研究は、オーストラリアやメラネシアに住む原住民は、南ルートで東南アジアに到達した現生人類の第一波の子孫であるのに対して、その他のアジア地域に住む人々は、そのあとに続いた複数の出アフリカの波の子孫である事を示した。この結果は、アジア人はアフリカからの単一の波を起源とするというこれまで支配的だった考えを大きく変えるものである。

更に、今回、純粋なアボリジニの遺伝子を完全に復元できた事により、他の民族の遺伝子とのより詳細な比較が出来るようになった。その結果、アボリジニやメラネシアンの遺伝子は、アフリカ人よりヨーロッパ人やアジア人により近い事が明らかになった。分子時計による年代推定結果と合わせると、アボリジニを含むアジア人、ヨーロッパ人の共通祖先は、アフリカを出たあと、いったん中東に滞留し、7.56万年前に、第一波が南ルートでオーストラリアに向かった、そして42.5万年前に、第二波が中東からヨーロッパやアジア主部へと拡散して行った、と考えられる事が解った。こうしたシナリオは、考古学的な証拠と概ね調和的である(但し、ヨーロッパに移住した時期は、4.5万年前と推定されるが)

更に、昨年、アルタイ山脈の洞窟で発見されたデニソバ人(旧人)との関係も再確認された。デニソバ人にアボリジニの遺伝子が少量混ざっていたのと同様に、アボリジニやメラネシアンのDNAに、デニソバ人との交雑の痕跡が確認されたのである。一方、他のアジア人には、その痕跡は確認され無かった。更に、デニソバ人との交雑の痕跡が南東に行くほど強い事から、デニソバ人は元々東南アジアに住んでいたのではないか、とまで推定している。

このNews and Analysisの記事は、一見何の役にも立たないものでも、珍しい物をきちんと記載した上で収集、所蔵しておくという博物学が、いつか、思わぬ役に立つのだという事を、改めて認識させてくれた。

2011年11月11日 (金)

Barker et al. (2011) Science, 334, 347-351. 千年スケールで繰り返す急激な気候変動の記録を80万年前にまで伸ばす試み

"800,000 years of abrupt climatic variability"

グリーンランド氷床コアの高時間解像度古気候記録は、最終氷期における急激な気候変動の繰り返しの存在(ダンスガード-オシュガー・サイクルと呼ばれる)を明らかにしたが、その記録は約10万年前までしか辿れない。しかし、南極氷床には、更に古くまで辿れる古気候記録が、連続的に残されている。そして、グリーンランドと南極の千年スケールでの気温変動は、AMOC(大西洋における子午面方向の海洋循環)を通じて、いわゆる、Bipolar Seesawのメカニズムでつながっている。Bipolar Seesawモデルに従うと、グリーンランドにおける気温の異常と南極における気温変化速度の間には、逆相関が見られる筈だが、実際、ミランコビッチサイクルに駆動される長期的な変化を除去したグリーンランドの高周期の気温変動と南極の高周期の気温変動の一次微分の間には、綺麗な逆相関が見られる。この関係を使えば、南極の気温変動から、グリーンランドの気温変動を人工的に復元することが可能な筈である。

そこで著者らは、南極の過去80万年間に渡る気温変動記録を使って、グリーンランドの気温変動記録の復元を試みた。復元に当たっては、ミランコビッチサイクルに駆動される、低周期の気温変動は、北半球は南半球に対して2000年遅れると仮定し、また、急激な気候温暖化のタイミングを決める際に、南極の気温変動の高周期成分の一次微分を使わずに、二次微分値に閾値を設けて決める方法を取った。その結果は、過去9万年間のグリーンランドの気温変動を十分良く反映するものだった。そこで、ここで仮定したAMOCを介したBipolar Seesawのメカニズムが、過去80万年間変わらなかったとして、過去80万年間のグリーンランドの気温変動を復元し、それを、南中国の鍾乳石に記録された、過去40万年間のアジアモンスーン変動の記録と比較したところ、両者は、比較的良い一致を示し、特に、融氷期に大振幅の急激な変動を繰り返す点で似ていた。また、大気メタン濃度の変動とも良い一致を示した。

著者らは、南極の気温変動を元に復元した過去80万年間のグリーンランドの気温変動が信頼できる物とし、特に融氷期に見られる大振幅の変動の繰り返しが、融氷期に見られる普遍的特徴ではないか、と主張している。そして、それが単なる受動的な古気候記録ではなく、AMOCのスイッチオン、オフを通じて、氷期を終わらせ間氷期に移行するプロセスに、能動的に関与しているのではないかと、展望を述べている。

2011年11月 5日 (土)

Foley et al. (2011) Nature, 478, 337-342. 持続可能な世界創出の為に、今、農業が進むべき道

“Solutions for a cultivated planet”

人類は、地球温暖化を始めとする、自らが招いた様々な地球環境問題に既に直面しているが、それに加えて、人口増加に起因する食料危機が迫りつつある。地球規模での食料危機から人類を救うには、ここ2030年の間に、食料の生産を倍増させる必要があるが、これまでのやり方で農作物の生産を増やすのでは、地球環境への負荷の更なる増大を招いてしまう。人類は、地球環境への負荷を軽減しつつ、農作物の倍増を達成すると言う困難極まりない課題を、これから~30年以内に達成しなくてはならないのである。この人類存亡に関わる超重要問題は、一応、認識されているものの、それに対する危機感が余りに低い。それは、一つには、現状を定量的、具体的、かつ包括的に記述して、解決策をわかり易く解説した科学論文が無いからだろう。ここに紹介する論文は、その意味で重要かつ貴重と言える。以下に、この論文の概略を紹介する。

現在、地球では、総人口の約7分の1が定常的に飢えている。農作物消費に関する考え方を抜本的に変える事なしに、現在の社会構造のままで、将来の人口増加、食生活の変化(贅沢化)、バイオ燃料の利用増大が進んだ場合、安定な食料供給を維持する為には、農作物生産を(2030年以内に)現在の倍にしなくてはならない。これ自体が大変な事だが、我々人類は、同時に、もう一つの大きな問題を解決する必要がある。それは、農業の環境への脅威である。今や農業活動は、気候変動や生物多様性の喪失の主原因であり、地球規模で土壌の劣化や水質の低下を引き起こしている。人類は、この問題も同時に解決する必要があることをこの論文は指摘している。

近年、世界的スケールで農業と環境の変化トレンドを見る事ができるデータが入手出来るようになって来た。例えば、氷床に覆われていない地球上の土地の内、耕作地はその12%を、牧草地は26%を占め、農耕地は併せて38%に達する。その面積は1985年から2005年の間に3%増加しているが、そのほとんどが熱帯域で起こっている。同じ期間に、全世界での農作物生産は28%増えているが、これは主に単位面積当たりの生産高が25%増加した事による。実際に収穫が出来た耕作地の面積は7%増えており、その主な原因は多毛作の増加や洪水、干ばつなどの被害の減少などである。その事を考慮した上での19852005年の間の全世界平均での単位面積当たりの農作物生産高の増加は20%で、19651985年の間の56%から大きく減少している。これは、単位面積当たりの農作物生産の増加が限界に近づいている事を示唆している。

では、生産された農作物は、どの様に消費されているのだろうか。実は、生産された農作物のうち、人間の口に直接入るのは僅か62%である。あとの35%は、家畜の餌であり、3%はバイオ燃料などに使われる。この割合は、地理的にも大きく変化する。北米や欧州では、家畜の餌になる割合が高く、人の口に直接入るのは40%過ぎないのに対し、アフリカやアジアでは80%以上に達する。そして、家畜を育てるのに使われている土地(餌のための耕作地を含む)の面積は、全農耕地面積の実に75%に達するのである。こうした現実を考えると、少なくとも生産性の高い耕作地を家畜の餌の生産の為に用いるのは、慎むべきだろう。

農業の環境への影響には、大別して、「農耕地拡大」と農耕地の単位面積当たりの生産性を上げる「生産性強化」の2つの側面がある。これまでの農耕地拡大史を世界的スケールで見ると、草原の70%、サバンナの50%、温帯落葉樹林の45%、熱帯雨林の27%が、農耕地に転換されてきた。そして、現在、転換されつつある土地の80%が熱帯の森林であり、その伐採に伴うCO2の放出は、全人為的放出の12%に及ぶ。一方、生産性強化に伴って、ここ50年で灌漑された耕地面積はおよそ2倍になり、肥料の使用量は50倍になっている。その結果は、水質の低下、エネルギー使用量の増大、そして公害を招いている。実際、人類による淡水の利用の70%は灌漑によるし、肥料の使用は、リンや窒素サイクルの擾乱を通じて水質、生態系、漁業などにも影響している。また、農耕地拡大や生産性強化は、人為的なGHG(温室効果ガス)放出の30-35%を引き起こしている。

こうした情報から得られる重要な結論は、「熱帯域における農地拡大は、生物多様性を減少させ、GHGの放出を加速させ、重要な生態系の機能を低下させるにも拘らず、地球規模での食料供給にはほとんど貢献しない」という事であり、「生産性強化の費用対効果は地理的条件や農業経済的努力により大きく変化する事を考慮して、食物の生産と環境保護のバランスと言う視点でベストな解を選択すべき」という事である。

地球規模での食料安定供給と環境の継続的維持を両立させる為には、現在の農業システムを大きく変える必要がある。新しい農業システムにおいても、今後の20-30年のうちに、食料生産を倍増させる必要がある。同時に、農業に係わるGHGの放出を少なくとも現在の2割にまで減少させ、生物多様性や生態系の喪失を食い止め、水の消費を持続可能なレベルに押さえ、水質の低下を食い止める必要がある。これら問題の解決策として、以下の四つの提案がなされている。

1)特に熱帯域における農耕地拡大の阻止: 熱帯域において農耕地に転換される土地の多くは生産性が低く、生産性が高い土地も食料生産に寄与していない場合が多い。熱帯域で必要とされる食料の増産は、周辺域での増産でカバー出来るので、経済的インセンティブを与える事により、実現可能と思われる。

2)イールドギャップの解消: イールドギャップとは、「ある土地において実現可能な最大の生産性と現実の生産性の差」と定義される。現在の地球においては、イールドギャップの地理的分布の変化が大きく、かなり改善の余地がある。多くの地域で栄養分や水が生産性を規定しており、それは管理法のマズさに起因する。もし、実現可能な最大の生産性の95%の生産性を全世界で達成できれば、世界の食料を58%増加させる事が出来る。75%まで上げるだけで28%の増産が可能である。こうしたイールドギャップの解消は、環境悪化を引き起こす事なく、達成されなければならない。それには、従来の農業を大きく変える事、市場の内部構造を改善する事など、大胆な改革が必要である。

3)農業を行う為に使う資源の有効利用促進: 水や肥料やその他化学薬品の使用を抑制しつつ、農作物の生産をあげる事も重要である。例えば、耕作地の24%で灌漑が行われているが、その費用対効果は地域により様々である。肥料についても同様で、肥料の過剰使用による水質の悪化が問題になる一方、途上国におけるイールドギャップは多くの場合、肥料不足に起因している。こうした問題は、肥料の過剰使用自粛、栄養塩のリサイクル、湿地の保護などの努力により解決し得る。

4)食習慣の転換と食料の浪費削減: 農作物の家畜の餌への使用、バイオ燃料への利用、その他人間の食料以外の利用を止める事により、食料の供給を28%増やす事が出来る。また、FAO(国連の食料・農業に関する機関)などの試算によれば、生産された食料のうちの1/2ないし1/3が、食される事なく遺棄されている。開発途上国においては、輸送及び貯蔵過程で40%以上が失われるのに対し、先進国では40%以上が無駄に捨てられている。

 現在の地球において、既に10億を超える人々が飢えており、有効な対策を講じなければ、状況はどんどん悪化するだろう。我々は、この状態を黙視すべきではない。上に示した4つの対策を全て講じる事でのみ問題の解決が可能である。そして、これらの戦略を、世界中で有効に進めるには、数多くの経済的、政治的改革が必要となるだろう。

 論文では更に、その為のガイドラインも提案している。

2011年10月24日 (月)

Sobolev et al. (2011) Nature, 477, 312-316. P/T境界での大量絶滅を大規模火山噴火で説明するのに、有機物に富む堆積物への貫入は、必ずしも必要ない

"Linking mantle plumes, large igneous provinces and environmental catastrophes"

今から25千万年前の二畳紀と三畳紀の境界(P/T境界)で、顯生代(大型で化石に残る様な殻や骨格を持った多細胞生物が出現、反映した時代)史上最大の生物大量絶滅が起こった事は、すでに良く知られた事実である。その原因は、これまで謎とされており、様々な仮説が提案され続けてきたが、仲々決着がつかなかった。しかし、その状況に、最近、大きな変化が見られ始めた。いわゆるLIPs(巨大火成岩区:  大規模な玄武岩質溶岩の噴出)と大量絶滅との関係である。

LIPsと顯生代における生物大量絶滅とが関係するとする説は、1980年代から既にRampinoらにより提唱されていたが、両者の同時性の検証が不十分であるとともに、火成活動がどの様にして大量絶滅を引き起こしたか、そのメカニズムが不明確であったため、多くの研究者の支持を得るには至らなかった。しかし、2000年代に入って、いわゆる大量絶滅境界における高時間解像度の地質記録の解析が進むに連れて、LIPsと大量絶滅の同時性に関する証拠が急速に積み上がって来た。また、絶滅境界前後での炭素循環の変化や大気中の二酸化炭素濃度の急激な変化に関する証拠も出始めるに及び、生物大量絶滅を引き起こす有力メカニズムとして、急速に浮上して来た。P/T(二畳紀/三畳紀)境界で起こった顯生代最大の大量絶滅についても例外ではなく、シベリア洪水玄武岩の噴出との同時性を示唆する証拠が次々と出されている。

しかし、シベリア洪水玄武岩の噴出は、100万年以上続いたと考えられ、それに伴って放出されるCO2だけでは、生物の大量絶滅を引き起こす様な環境変動を生じさせるには不十分であるという批判が根強く存在する。これに対して、洪水玄武岩の噴出を引き起こしたマントルプリュームが、石油や石炭など有機炭素を多く胚胎する地層中に貫入してそれらを熱分解させる事により、急激な地球温暖化を引き起こすに十分な二酸化炭素濃度が大気に供給されたとする説が提唱され、それを支持する証拠も提示されつつある。それに対して否定はしていないものの、本論文では、それに変わる仮説を提示している。

  筆者らは、シベリア洪水玄武岩の岩石学的、鉱物化学的な分析結果を元に、それが、15%を超える量のリサイクルされた海洋地殻起源物質を含んでいる事を示した。これには2つの重要な意味がある。その一つは、こうしたマグマが、従来考えられていた純粋にマントル起源のマグマに比べて比重が大きい事であり、もう一つは、より多くの二酸化炭素(HCl)を含む事である。

比重が大きい事の意味は、プリュームの上昇速度が遅くなる事である。通常のマントルプリュームの上昇では、プリュームに突き上げられる形で地殻が数km上昇、隆起して割れて、そこから洪水玄武岩が噴出するが、シベリア洪水玄武岩では、その噴出に先立っての地殻の隆起や分裂の証拠がなく、謎とされていた。筆者らは、プリューム上昇に関する2次元の熱学ー力学的モデルを作り、プリューム上昇の様子を計算で再現した。その結果、プリュームは、厚い大陸地殻を下から崩しつつ溶かしながら上昇し、数十万年のうちに地表近くまで達する事が示された。また、下部大陸地殻を「食いながら」上昇する際に、プリュームの最上端に下部地殻起源の二酸化炭素が濃集するために、玄武岩質溶岩の噴出初期に、大量の二酸化炭素(およびHCl)が噴出する事が期待できるというのである。さらに下部地殻を食いながら上昇するため、溶岩噴出に先立つ地殻の隆起や、分裂が起こらないというのである。

つまり、この説に基づけば、P/T境界での生物絶滅を引き起こすに十分な二酸化炭素やHClを数十万年以内といった比較的短期間に大気に放出する事ができるし、これまで謎とされていた、シベリア洪水玄武岩の噴出前に大規模な地殻の隆起や分裂が起こらなかったことをうまく説明できる、というのである。LIPsと生物の大量絶滅を結びつける有力な説ではあるが、これまで言われて来たマントルプリュームが有機物に富んだ堆積物に貫入した事により、有機物が熱分解されて大量の二酸化炭素を大気へ放出したとする説を否定した物ではないことを付記しておく。

カウボーイ&エイリアン。悪くはないけど、やや無理があるかな

夏から秋にかけて、海外調査と野外実習で、なかなか映画を見に行けなかった。今日(23日)も、やる事が色々あったが、時間をやりくりして3ヵ月半ぶりに映画に行った。昨日封切りの「カウボーイ&エイリアン」だ。スピルバーグ総指揮でダニエル・クレイグ主演、ハリソンフォード助演ということで、猿の惑星:ジェネシスと迷った末に選んだが、封切り2日目にして劇場はガラガラ。これでは1週間で打ち切りになりそうである。

映画は、記憶喪失のお尋ね者ロネガン(ダニエル・クレイグ)が荒野で倒れているところから始まる。ロネガンは、けがをした状態で近くの街にたどり着くが、そこで街の有力者ドルハイド(ハリソン・フォード)の息子とトラブルになる。二人が保安官に逮捕され、護送されようとしたところに突如宇宙船が現れ、街を攻撃し、人々をさらうのである。宇宙線の様子は「未知との遭遇」を思い起こさせ、それにエイリアンと西部劇が加わるのである。1粒で3度おいしい、と言えない事もないが、どちらかと言えば、余り一緒にする必然性がない物をごった煮にしている感が強い。ダニエル・クレイグやハリソン・フォードはそれなりに見せてくれるので退屈はしないが、無理に宇宙物のSFと西部劇を一緒にしなくても、という感想は否めない。まあ、可もなく不可もなく、と言ったところでしょうか。

2011年10月 5日 (水)

黄色い紅河: ダムは河の色まで変える

九月中旬に二週間余り、学生二人を連れて、中国雲南省の揚子江上流域(金沙江と呼ばれる)に調査に行って来た。揚子江上流域の有る雲南省西部には、実は、アジアの主要河川であるサルウィーン河、メコン河、紅河、揚子江の上流域が集まっている。そこで調査の後半にこれら大河川の上流域を全て周り、河川水、河川懸濁物、河床堆積物の試料を採取して回った。その際、紅河の上流域から河に沿ってベトナムとの国境の町、「河口」まで下った際の話である。

Red_river_1_2我々は先ず、保山から高速を南西に向かい、国道が紅河を渡った地点で高速を降りた。紅河にかかる橋は高さ170m余りで、世界で最も高い橋脚を持った橋だそうである。橋から見た紅河は、まさしく紅色をした河で、その紅色は、亜熱帯気候下で夏季モンスーン降水の影響を受けて形成された紅い土壌起源の砕屑粒子による事が容易に想像される。「その名の通り紅河だ」などと話しながら河沿いを車で下った。

 

道はごく最近整備されたようで、片側1車線の舗装道路が続く。やがて、川幅が広がり、流れが緩くなってきた事に気がついた。同時に、心なしか河の色が褐色がかっている。首をかしげながらさらに進むと河の流れは淀み、その色は緑がかって透明度が増して来た。これは、紅色の原因となる懸濁粒子の大きさが比較的粗くて(恐らく数十ミクロン前後)早く沈降するのに対して、より細粒でより長時間浮遊していられる細粒(恐らく10ミクロン以下)の粒子の色が黄褐色をしているためと考えられる。流れがなくなって長時間攪拌されずにいると、やがて懸濁粒子はそのほとんどが沈降し、植物性プランクトンが浮遊するのみとなる。これが半透明の緑がかった色の原因である。

Red_river_2_2 下流にダムがあるのではないかと想像しながら更に下ると予想通り完成間近のダムが出現した。高さは50m強、中規模のダムである。ダムからは、緑がかったやや透明な水が放流されている。更に下ると支流からの水が加わって河は再び濁るが、その色は黄色がかった褐色である。こうした褐色の河の色は、ベトナムとの国境の町、河口まで続く。しかし、河岸より少し高い所に堆積している河泥は紅色をしており、つい最近まで、河が紅色に懸濁していた事を示唆する。

時間の関係で、我々はベトナムには入らなかったので、紅河の褐色の色が海に至るまで続いたかどうかは確かめられなかったが、多分、褐色のままなのではないだろうか。ダムは河の色まで変えてしまったのである。

Red_river_3実は、アジアには、複数の国にまたがって流れる大河川が 多数存在する。そして、上流域の国(多くの場合は中国なのだが)が、治水や発電のためにダムを作り、それが下流域の国の国益を損なうために、国際問題になる事例が多発している。せめて、ダムを作ろうとする国の施政者に、ダムを作る前と後で下流域の景観や河川に依存する人々の生活がどう変わったかを、自分の目で見て体感させることが出来たら、多国籍河川にまつわる問題も少しは減るのではなかろうか?

«「下町ロケット」に見る日本の未来のあるべき姿